1999/12/03 白井慎一

ベルギービール食視察・(99/11)


ベルギーの歴史

ベルギーという国の名前は、青銅器時代に現在のベルギーにすんでいたベルガエ 族に由来すると言われています。勇猛をもって知られていたこのベルガエ族は、 かのジュリアス・シーザーを散々てこずらせましたが、遂に紀元前50年頃、そ の支配下に入りました。約400年間にわたるローマ帝国の支配の後、次にやっ てきたのはゲルマン民族の一部族、フランク族でした。フランク族はベルギー北 部に定住し、南部はそのままローマ帝国の影響を受け継いでいくことになりまし た。

現在、ベルギーは、大きく二つの民族に分かれていますが、それはこのような歴 史的背景に因ります。即ち、ゲルマンの領域に入った民族が、現在アントワープ を中心とする北部に住み、オランダ語とその方言フラマン語を話すフラマン人。 一方、ローマ帝国の面影を引き継いでラテン化していった民族が、南部に暮らし 、フランス語とその方言ワロン語を話すワロン人なのです。忠誠封建時代に入っ て、ベルギーでもフランドル伯領やリエージュ伯領など、今日の州名に残ってい る多くの封建国家が誕生し、次第に勢力をのばしていきました。西ヨーロッパ世 界を巻き込んだ十字軍は、同時にヨーロッパ人の視野を広げて、遠隔地貿易を盛 んにし、それに従って商業都市が発達することになりました。当時の貿易圏の一 つ、北方貿易圏(北方:琥珀・毛皮など⇔欧州:羊毛・毛織物)の中心でもあり 、有名な都市同盟・ハンザ同盟の四大商館所在都市として栄えてのが、フランド ル地方のブルージュです。

中世後半のベルギーは度重なる領有権交代に揺れ動きました。まず、14世紀 末期、フランスのブルゴーニュ公家とフランドル伯家との婚姻により、ベルギー を含むネーデルラントの大部分は、フランスの支配下に置かれました。15世紀 後半にはオーストリア領、16世紀からはスペイン領と、目まぐしくその支配者 が交替しました。

そんな中で、ベルギーはまたルネサンスという大きな流れを経験することになり ました。イタリアで始まったルネサンスは各国に飛び火し、15世紀のネーデル ラントやドイツでも新しい芸術運動が花開きました。社会的・経済的発展を遂げ ていたブルージュ、アントワープ、ブリュッセルといった諸都市がその中心とな りました。ブリューゲルや、ファン・アイク兄弟がこの時代を代表する画家たち です。同じスペイン領だったオランダが16世紀の終わりに独立を宣言していた のに対し、ベルギーの独立は長い苦難の道を経た後に達成されます。18世紀は じめにスペイン領から、オーストラリア領になっていたベルギーは、フランス革 命の最中フランス領とされ、ナポレオン時代もフランスに合併され続けました。 ナポレオン失脚後は、オランダに合併され、1830年に独立を宣言するもの、 完全に独立を勝ち得たのは、1839年のことでした。

その後も二度の世界大戦には、二度ともドイツに占領されるという、苦難と混 乱の歴史を持っているのがベルギーなのです。「ヨーロッパの十字路」と呼ばれ る由縁でしょう。フランス語、ワロン語、オランダ語、フラマン語、更に第一次 大戦後にドイツ領からベルギー領になった地域で使われているドイツ語。使用言 語に象徴されるようにベルギーという国はひとつの国ながら、その内部は複雑で す。大きく二分される民族を抱え、しかし、共存の道を歩んでいるベルギー。そ んな国だからこそ、「ベルギーを訪れることなくして、ヨーロッパを語ることな かれ。」とさえ、いわれているのです。

ベルギービールの基礎知識

800種類以上の銘柄を持ち、豊かな香りと個性的な味わいが楽しめるベルギ ービール。その代表的な種類や味の違いなどを知ることにより、よりベルギービ ールの楽しさが広がります

ランビックビール

ベルギーを代表する伝統的なビールで、独特の香りと強い酸味が特徴。ブリュ ッセル近辺のみで造られる。空気中の酵母により発酵し、熟成に1〜2年要する 。

トラピストビール

濃色でアルコール度数が高く、苦みの強いものが多い伝統的な上面発酵ビール 。修道院内部に醸造所を所有するトラピスト派修道院で造られる。「トラピスト ・ビール」の呼称を使うことを許されているのは、世界中に6ヵ所しかなく、そ のうち5ヵ所がベルギーにある。

アビィビール

アルコール度数の高い濃色の上面発酵ビール。トラピスト・ビールに似た洗練 された味わいが特徴。一般の醸造所が、昔醸造所を所有していたトラピスト派以 外の修道院から、昔ながらのレシピ・醸造方法を受け継いで造っている。

ホワイトビール

大麦麦芽と小麦で作った上面発酵ビールで、白く霞みがかった淡黄色をしてい る。心地いい酸味が特徴の清涼感溢れるビール。

レッドビール

オーク樽で熟成した、上品でまろやかな味わいと芳香な香りが特徴。西フラン ダース地方で造られる深紅の上面発酵ビール。

ゴールデンエール

ラガービールより淡い、美しい金色の上面発酵ビールで口当たりがまろやか。 アルコール度数の高いものは、ストロング・ゴールデンエールと呼ばれる。

スペシャルエール

ベルギーのビールにはランビックビールやホワイト・ビールなどのカテゴリー に入らない個性的な、その町やむらと密接な関係を持つその土地独自のビールが あり、多種多様な味わいが楽しめる。

ベルギービールのおいしい楽しみ方

ベルギービールは、常温(約15度)で保存(コルク栓タイプのものは横に寝 かせた状態)しておけば酵母の働きで熟成が進み、芳香なまろやかな味わいが楽 しめます。賞味温度は、ビールのタイプや銘柄、また季節や好みによってさまざ まですが、アルコール度数の低いもの、ホワイトビール、ランビックビールなどは 冷たく冷やして、アルコール度数の高いものや、トラピスト、ダークなものはや や冷たい程度(冬は約15℃、夏なら約7〜8℃)で、ゆっくり楽しんでいただ くのがおすすめです。又、ビールの銘柄ごとにそのオリジナルグラスで飲むのが ベルギーの流儀。様々なビアグラスに対のコースター、味はもちろん、目でもビ ールを楽しめます。ベルギービールを一度口にすると、脈々と受け継がれてきた 伝統的なビール文化が漂い、深い味わいを存分にお楽しみいただけることでしょ う。